『刷版業』とは何か1.「刷版」の字義的な意味「刷版」とは、字義的に言えば、文字通り「印刷の版(印刷機にかけて刷る版)」を意味します。ハンコとの比較で申しますと、 ハンコそのもの=刷版 ハンコを押す紙=印刷用紙 朱肉=インキ ということになります。従って、このハンコを作る作業が、印刷の工程においては、「刷版」工程ということになります。 現実には、印刷方式が様々あるために、「刷版」の具体的な意味は、印刷方式により異なってきます。 2.印刷の種類による「刷版」の違い今日、印刷方法は主に4つに大別されます。
以上の印刷方式によって、刷版の意味が違います。たとえば活版印刷では、活字を組んだ「組版」が、そのまま印刷のため「刷版」になります。他の方式では、まず版下をカメラでフィルムに撮って「原版」を作成し、次にその原版に光を当てて、それぞれの方式によって異なる「判材」に焼き付けを行うことになります。 印刷方式に関しては、現在では平版方式による「オフセット印刷」が、90%程度を占め、主流となっています。従って、現在「刷版」といえば、事実上「オフセット印刷のための刷版」と考えてさしつかえなく、そこで、より実体に則した「刷版業」の定義をすれば、「フィルム原稿をオフセット印刷するための版材加工業」ということになります。その場合の「版材」としては、現在では「PS(*Pre-sensitized)版」と呼ばれる、アルミ素材の板が用いられています(後述)。 *Pre-sensitized・・・・・・あらかじめ感光性を与えられた(形容詞) 3.「製版業」の意味「製版」とは、字義通りには「原稿をもとに版を製作する」ことを意味しますから下記の大雑把な印刷工程の中で、広い意味で「製版」を定義するなら、「版下」や現在は「デジタルデータ」を使って「刷版」(印刷に必要な版)を作るまでの工程すべてを「製版」と定義づけることもできます(図1参照)。
しかし、現実の印刷産業では、「フィルム原版」の製作と「刷版」の製作それぞれが独自の技術と設備を要するため、独立したプロセスとして扱われることが多く、それぞれが独立した事業として成立しています。 両者はともに「製版」には違いがないため、その紛らわしさを回避するため、原版の製作工程を「プロセス製版」「写真製版」と呼び、刷版の製作工程を「刷版製版」または「直焼製版」と区別して呼ぶこともあります。さらに簡単に、前者を「製版」、後者を「刷版」と呼称しているのが現状です。 4.「製版業」と「刷版業」上記事情により、「フィルム製版」、「刷版」という区別は、これまで充分認知されておりませんでした。しかし現実には、前者のみ、あるいは後者のみの製作を事業としている場合が多く、特に都内では、「刷版」を専業とする事業者が相当数(約300社)あり、その売上規模(推定)も250億円程度と考えられます。これは都内の印刷業者全体が扱う刷版の60%〜65%程度を占めるものと思われます。※データは本文書が作成された1993年当時のものです。 こうした中で、これまでは「製版」専業であっても「刷版」専業であっても、共に「製版業」を名乗っておりました。それは、業種の分類が「製版業」としてくくられているためであります。 しかし事業の実体としては、「フィルム製版」と「刷版」では、(共に印刷の工程ではありますが)大きく異なっている次第です。 5.「刷版専業者」の事業内容さらに、図2にありますように、「刷版業」には、最終的な印刷物の質を左右する重要な工程が含まれております。それが「割付作業」と呼ばれる工程です。「割付作業」とは、後工程の印刷・製本・加工等を前提として効率良く円滑に作業を進めるための基本設定を、刷版を作る段階であらかじめ折り込んでおくことです。 たとえば出版物であれば、印刷する際には通常、複数ページ(16面など)を同時に印刷することになるわけです。その場合、印刷物を数回折りたたむこと(「折り丁合」という)になるわけですが、その際ページ順はもちろん、あらかじめ印刷する用紙の厚さやクセなどを考慮し、製本工程で狂いが生じないようにしなければなりません。また、別の商品(たとえばダンボール製のパッケージ等)であれば、別の配慮が必要となります。 この「割付作業」に限らず、刷版工程においては、印刷、製本、そして最終成果物までのあらゆる知識、ならびに豊富な経験に基づく高度な知識が要求されることになります。最終的な仕上がりを決定的に左右する工程であるだけに、品質を追求する姿勢も当然厳しく、何かとお客様にお問い合わせを頂く立場にあるのが「刷版業」であるといえます。
6.刷版製版工程
7.刷版製版の歴史刷版の版材の歴史は石版から始まり、銅版、ジンク版(鉛・錫)、アルミ版と発展して、現在はPS版(アルミ素材に感光材を塗布したもの)になっています。オフセット印刷は、「水と油の反発作用の原理」によって行われるものでありますが、ジンク版時代の刷版は大変不安定(化学変化等)な素材であり、当時の印刷業者や刷版技術者は、計り知れないほどの苦労をされました。 その後、アルミの性質が不感脂性であり親水性であることから、オフセット印刷の版材に適していることがわかりました。その結果、大手メーカーによって、この素材(アルミ)の板に感光材が塗布加工され、安定した高品質の版材として提供されるようになりました。(PS版)。現在では刷版作業や印刷機上でのトラブルは大幅に解消されてきています。 *現在、世界のオフセット印刷の版材は、PS版(アルミ素材)が主体となっています。 「刷版」(転写刷版とも言う)の由来をたどってみますと、日本でカラー印刷が手がけられる前まで遡ります。まず「画版師」と呼ばれる人が元版を作成します。画版師は、印刷業者が得意先より受注した図柄を、脂肪性のインクを使って(筆などにより)正確に書き出します。これが元版です。 次に「刷版師」が、印刷機にかけ印刷するための刷版(いわゆる印刷の元版)を作成します。刷版師はまずチャイナー紙(当初は中国紙、後に国産和紙)にのり性の物を塗り、そこに元版(脂肪性のインキで図柄が書かれている)の図柄を一旦写し取り、それから得意先の指定に従って、図柄配分や見当合わせをしながら、印刷するための版材(ジンク版)に図柄を写し換え(転写)て、印刷元版を作成します。この技術は大変な高等技術でした。これが刷版の由来であります。 現在の刷版は、製版(フィルム製作)と刷版(PS版の製作)とに分かれ、従来の方法とは殊更に変化しております。前述した画版・転写刷版は、現在は皆無に等しい状態です。なぜならば、当時の画版師(例えれば「絵書師」)の技術分野は、今は100%、フィルムを使ったプロセス製版に取って変わられたからです。 しかし、フィルムだけでは印刷はできません。そこで、フィルムから光投射によりPS版いう版材に図柄を写し取る「焼付け」作業が必要となるわけです。その際かつて刷版師がやっていたように、「得意先の指示に沿って、図柄配分やら見当合わせをしながら写し換えて、印刷機に掛けて印刷するための刷版(印刷元版)を作る」ことになるのです。 この刷版工程には、いまだに旧来の作業工程から変えることのできない作業があります(長い説明を要します)。現在でも、自動化(機械化)可能な部分は既に自動化されて(コンピュータ搭載の機材に置き替わって)おります。しかし100%満足できるものにはなっていません。また全面的に自動化するためには、多種多様な手作業部分をロボット化しなければなりませんが、これは作成技術が複雑なため、膨大な費用を要することになります。 さらに、ここ数年のデジタル化の流れでコンピュータからダイレクトに印刷元版を出力するCTP(コンピュータ・トゥ・プレート)へと変化しており、製版・刷版という垣根はなくなってきています。
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